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週刊連載 富野由悠季起用論その4 「富野はネームバリューも低いし、売れないって本当かい?」

2009/08/01 14:00|富野由悠季関連TRACKBACK:0COMMENT:2
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4.富野はネームバリューも低いし、売れないって本当かい?

 富野由悠季はアニメ界では間違いなく有名人ですが、商売上の「名前による価値」では、例えば宮崎駿・押井守・大友克洋らと比べ、今ひとつといえるのではないでしょうか。
 宮崎監督は格別として、押井や大友でも大体は「映像作家」とか、「外国に認められる『攻殻機動隊』/『アキラ』の巨匠」として挙げられていることが多いですが、富野は「(あのロボットアニメの)ガンダムの生みの親」として、どうしてもガンダムありきの人と見られています。実績のある多くの作品が『ガンダム』のため、どうしても監督本人の評価に結びつきません。(前にも触れたが、富野の影響力を消したい部分もあるかもしれないにせよ、)基本的に富野は商売面においては、バンダイ・サンライズから見ればそんなにネームバリューがないとも思えます。


 また、世間ではどうも「ここ10年の富野は売れない」という思い込みがあるようです。

 実績を見ればまったくそうではないにも関わらず、そういうイメージができてしまうのは、おそらくガンダム作品を連発していた80年代と比べ、近年の売り上げはどうしても地味になりがちだからでしょう。
『キングゲイナー』に至っては、バンダイビジュアルが決算報告書で「キングゲイナーは予想ほど売れなかった」と明言していましたから、少なくとも当時のバンビジュは富野作品に大きな期待を抱いており、そして失望したのはまちがいないようです。
 また、ここ数年、観客の好みも変化しており、80年代みたいに富野作品だけで、常にスポットライトを浴びられることも少なくなっています。


 「富野は売れない」ということは、現状、ある意味では事実かもしれません。一般向けの宣伝に限れば、富野最大のキャッチコピーはおそらく「ガンダムの生みの親」でしょう。業界内外にも膨大なファンがいるにも関わらず、映像作家と言われることはごく一部に限られ、宮崎駿みたいに誰もに認められることはほとんどありません。

 もっとも、宮崎、押井、大友氏にまつわる宣伝と、富野に対する扱い方を長期的に比較すれば、なぜこのような差が出るのがわかるはずですし、実際の実績を検証すれば、「売れない」という思い込みはいかに事実とかけ離れていることを知ることもできます


 宮崎駿は自分の才能以外に、鈴木敏夫氏のプロデュースと日本テレビとの提携がかなり大きな功を奏しています。押井守なら売れなくてもガンガン本を出したり宣伝したり、テレビに出演したりして、ようやく首の皮一枚で体面を保っているのも、(ファンには申しわけないけど)事実です。大友克洋は寡作のためまだマシだったんですが、もし『スチームボーイ』程度の作品を連発したら、果たして今の名声を保っているかどうかもあやしいです
 これが、「映像作家」として挙げられている人たちが、映像作家と呼ばれている実態です。
 また、映像作家と呼ばれる人たちの作品は一見どれもハイレベルですが、「映像作品にする」という前提で作っているため、「映画」という形に特化したのが特徴です。そういう作品は、普通は販促をやらずに、映像作品という一面を前面に打ち出すので、その監督の「映像作家」としてのネームバリューを強化するものになるわけです。

 一方、富野に関しては、テレビアニメとの相性が良いとはいえ、必ずなんらかの販促縛り作品をやらされています。
 ガンダムシリーズのプラモ販促以外でも、『ブレンパワード』はWOWOWのスクランブル放送牽引、『リーンの翼』はバンダイチャンネルの視聴者開拓など、何か商業的に大きな目標がつきものです。そのような作品は枠からして非常に不利であるため、映画や地上波放送と比べ、注目されにくいのも当然です。販促ありきのアニメが映像作品になりえないわけでは決してないのですが、作家性が評価されにくい一面があるのは事実です。

 つまり、そのように育てていないので、ネーム(名声)があっても、バリュー(価値)が出ないのです。「卵が先か鶏が先か」かもしれませんが、バックグラウンドであるサンライズが富野に投下している資源も宣伝の方向も歴然の差があるのは事実です。
 むしろ、長年おもちゃ付きの作品を作り続けているため、ずっと作家面においては無視されているにも関わらず、(今の程度には)名声を得ているのは、まさに富野本人が勝ち取っているものではないでしょうか。


 売り上げに関しては、実際の状況から検証しなければいけません。『Vガン』以前の富野作品は、すでに歴史があり、ボックス売りが基本販売形式であるにも関わらず、出すたびに一定の数字を残している実績があります。以下は『ブレンパワード』以後の富野作品を考えてみましょう。

 『ブレンパワード』は WOWOWスクランブル放送にも関わらず、1998年のテレビアニメ作品としては3番目、歴代のWOWOWスクランブルアニメとしては1番の売り上げを記録した作品です
 また、WOWOWスクランブル放送第1作として契約人数にもかなり貢献し、当時の海部正樹部長が絶賛して「WOWOWを富野作品のバックグラウンドにしたい」とまで言わせたほどであり、スマッシュヒットといってもよいでしょう

 次の『∀ガンダム』も放送条件は悪かった。まず、フジテレビは金曜日夕方4時55分の枠しか用意できなかったうえ、本放送の放映は何度も休止され、フジテレビがいかにこの作品を重視していなかったかが伺えます。
 また、メインスポンサーのバンダイが、スポンサードセールス対象を系列全局としなかったためにローカルセールス扱いで、放送していた系列局(フジテレビを除く)は27局中10局と半分以下。その結果、視聴率はいまいち振るわず、プラモの売れ行きもあまり良いとはいえません
 それでも、新放送ガンダムとして全体の売り上げを引っ張って、バンダイ当年の売り上げは前年より右肩上がりで、DVDなどのソフトも当年のテレビアニメとしては好調な成績を記録し、バンダイMG100番目のプラモに選ばれてヒットしたなど、作品自体の評価はこの10年近くだいぶ上がってきました

 『新訳Z』に関しては、旧作カットと新作カットを混在させた低予算映画にも関わらず、バンダイビジュアルとして当時の興行とDVDのダブルスコアを作り上げてくれました。また、『Z』のプラモを牽引する目標も達成しました。
 興行がだんだん減ったのは確かに痛手でしたが、それでも全体の推移を見れば、十分大ヒットの部類に入ります。また、この制作スタイルはのちの『ヱヴァンゲリヲン』にも継承され、新しいビジネスモデルを確立しました。

 『リーンの翼』の場合、ネット有料視聴の先駆けとして打ち出した作品で、バンダイチャンネルの知名度を上げ、ネット視聴人数の底上げを目指すという戦略的目標を背負ったものですが、PV発表や1話配信など当時の盛況から見れば、バンダイチャンネルにとってかなり成功した一作といえます
 またネット有料配信として先行後、DVDも発売されましたので、パッケージはOVAとして扱われるという売り方が見られます。DVDの売れ行きは『SEED』スピンオフの『スターゲイザー』(‘07)には劣るものの、のちに同様のプラットホームで無料放送された『FLAG』(‘06)や『いろはにほへと』(‘06~07)と比べれば、ずっと好調でした。また、DVDは1巻1話収録で発売したため、1話あたりの値段が割高となるハンデがあったのですが、同じバンダイビジュアルから発売された1巻2話収録の『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』(‘07~08)と比べれば、売れ行きも1話あたりの収益もほぼ同じ推移が見られます
 そして2006年11月5日、バンダイチャンネル、GyaO、BIGLOBEストリームにて24時間全話限定放送したイベントでは、(無料とはいえ)バンダイチャンネルだけで50万アクセスを記録しました。2008年『コードギアス 反逆のルルーシュR2』を放送中に、第1話を約1ヶ月の期間限定で無料配信した結果が(バンダイビジュアル曰く「爆発的な人気」の)42万アクセスだったことと比べれば、この数字がいかにスゴイのかは分かるはずです。

 最後に『キングゲイナー』は、同じWOWOWスクランブル放送の『ブレンパワード』に比べ、確かにDVDの売り上げは少し減ったように見えますが、それでもWOWOWスクランブル放送のテレビアニメとしては、歴代第3位の売り上げを記録しました
 また、スクランブルという、見たければ金を払わなければならない前提も忘れてはいけません。タダで見られる地上波アニメと比べ、それだけ壁が高い。さらにWOWOWの契約数を見れば分かると思いますが、WOWWOW視聴人数の視聴世帯のカバー率は深夜アニメより低いので、本放送の視聴人数によって決定されるDVDの売り上げは苦戦するのも当然なのです。


 こうして見れば、『新訳Z』以外は大ヒットが欠けているものの、全体的には継続的に安定した数字を出せる作品作りが見られます。これを「売れない」と言うことは、実はとんでもない間違いなのではないでしょうか?





最近の具体例を挙げると、今回『マンガインパクト』という特集を開くことになったロカルノ国際映画祭もそう。
バンダイビジュアル平成16年2月期 中間決算短信
出来は別として、『イノセンス』の予算20億に興行10億も、『スチームボーイ』の予算24億に興行11億も、決して褒められる結果ではいえません。
『無敵超人ザンボット3』のLDボックスは70年代の作品として『機動戦士ガンダム』、『未来少年コナン』に次ぐ3番目の売り上げ、『聖戦士ダンバイン』のLDボックスとDVDボックスが合わせて18000巻くらいなど。
ちなみに、当年テレビアニメ全般の第1位は『カードキャプターさくら』、第2位は『カウボーイビポップ』。
『富野由悠季全仕事』、キネマ旬報社、1999年、P292。
放送当時はフジテレビを含めて7つの放送局しか居らず、最大でもBBT・CX・UHB・MIT・SAY・THK・KTV・KSS・TNC・KTSと、10つの放送局しかなかった。『月刊アニメージュ』1999年5月号、12月号など参照。
それでも、販売プラモのアイテム数から見れば、決してそれほど悪かったとも言い切れません。当然、商品数も人気の指標の一つであることは間違いないのですが…。
『大人のガンダム完全版』(日経BP出版センター、2007年)、バンダイ事業決算書などを参照。
バンダイビジュアル第20期(平成15年2月期)中間事業報告書
『月刊モデルグラフィックス』2007年10月号(大日本絵画、P10)。『月刊ニュータイプ』2009年5月号(角川書店、P177)など。
『大人のガンダム完全版』、日経BP出版センター、2007年。
『語ろうZガンダム!』サンライズプロデューサー松村圭一氏発言(カンゼン社、2005年、P69)や富野由悠季2005年シカゴ国際映画祭パネルディスカッション発言など。
バンダイビジュアル・ニュースレター(株主通信)第6号第7号など。また、『新訳Z』の公開によって、旧テレビ版の売り上げにも貢献したという(バンダイビジュアル平成18年2月期 第1四半期業績の概況
『リーンの翼 オフィシャルガイド』BVプロデューサー宇都宮将人氏の発言(HOBBY JAPAN、2007年、P69)、バンダイビジュアルニュースレター(株主通信)第6号
『リーンの翼 オフィシャルガイド』BVプロデューサー宇都宮将人氏の発言(HOBBY JAPAN、2007年、P69)、バンダイビジュアル第23期(平成18年2月期)事業報告書など。
無料配信の『FLAG』の1巻の1000枚や『いろはにほへと』の1巻の2200枚に対して、有料配信の『リーンの翼』の1巻は5000枚弱の売り上げを叩き上げた。
『FLAG』の2話収録6300円(通常版)や『いろはにほへと』の3話収録6300円のテレビアニメ価格に対して、『リーンの翼』は1話収録6090円のOVA価格。また、『ペールゼン・ファイルズ』の限定版2話収録9240円(通常版7140円)と比べてもやはり割高。
『ペールゼン・ファイルズ』限定版2話収録9240円初動の6732枚に対して、『リーンの翼』は1話収録6090円の4919枚。売り上げ金額で計算すると、『リーンの翼』収益の良さが伺える。
『リーンの翼 オフィシャルガイド』BVプロデューサー宇都宮将人氏の発言(HOBBY JAPAN、2007年、P69)。
『コードギアスR2』第1話の配信期間に関して、BIGLOBEにて『コードギアス 反逆のルルーシュR2』一挙無料配信!の2008年5月17日~6月2日の17日に、BIGLOBEにて『コードギアス 反逆のルルーシュR2』第1話~最新話まで一挙無料配信!の2008年8月15日~8月25日の10日を加えれば、『R2』の無料配信期間は27日であることがわかる。42万ヒットに関して、【アニメ】「コードギアス 反逆のルルーシュR2」 ネット配信で人気爆発で見れる。
ちなみに1位は『ブレンパワード』で、2位は『星界の戦旗』。
『キングゲイナー』本編が放送された2002年9月のWOWOW加入件数である255万件を平成13年の世帯平均人口2.75をかけて、当時WOWOWの最大視聴可能人口はわずか700万ぐらいに留まる。





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コメント
最近の富野監督の放送形態・公開形態を見てると新しい分野における
新規開拓の使命を帯びているのが間違いないですね。
これは富野監督のネームバリューや能力があるからこそ任せられると言えるでしょう。
ただ新規開拓な側面が強いから、最終的な結果が数年先になって現れてしまうので
富野作品の直接売上に繋がりづらい状況だと思います。

ただバンダイやサンライズ的にはいつも、最低でもZ劇場版レベルのヒットを
望んでいるのでしょう。他作品と比較すれば売上で劣っていないのはわかりますが、
企業も監督自身もそこら辺りに期待値を置いてはいないでしょうね。
ohagi #-|2009/08/06(木) 09:38 [ 編集 ]
ohagiさん、コメントありがとうございます。

バンダイやサンライズは仰るとおりで、そういう感触がありますね。でも、だとしたら、それはおかしいし、もったいない気がします。ヒット作を作るには、『ブレンパワード』みたいな肩慣らが必要ですし、富野監督のネームバリューとほかの作品との相乗効果で、当会計年度にある程度の数字を貢献するだけでなく、他の作品と比べて長持ちできるコンテンツを獲得できるのは、正直企業にとって非常に美味しいものだと思います。

このへんは後の記事でも語りますので、もしよかったらそちらの記事も読んでみてください。
kaito2198 #L2WcHO2o|2009/08/06(木) 11:01 [ 編集 ]
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