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井荻麟作詞論 第55回 「本当かい!」

2016/01/16 16:27|井荻麟関連TRACKBACK:0COMMENT:0
このエントリーを含むはてなブックマーク はてなブックマーク - 井荻麟作詞論 第55回 「本当かい!」
 井荻麟作詞論は、富野由悠季監督が書いた作詞を語る記事シリーズなのです。今日の第55回では、テレビアニメ『OVERMANキングゲイナー』の挿入歌である「本当かい!」を語りたいと思います。



本当かい!
作詞:井荻麟/作曲:田中公平/編曲:岸村正実/歌:宮城小百合

東に海があるって 本当かい
海って広いって 本当かい

 1話の祭りシーンの際に、次回の「ミイヤの祭り」と共に流れた挿入歌である。第48回で『∀ガンダム』の挿入歌 「宵越しの祭り」を語る回でも説明したが、この時期の富野が達した結論のひとつとは、劇中世界の「生」の声を作ることで身体性の体現となる「祭り」を再演するという手法なのだが、『キンゲ』においてのこの曲もまさにそうだ。



 全体を見ると、色んな物事に対してひたすら「本当かい?」と問う歌詞になっている。

林が魚育てるって 本当かい
海が雲作るって 本当かい

 一見どういう描写かがよくわからない内容なのだが、これはまさに世界観の表れである。つまり、歌詞に出てくる疑問は、すべてドームポリスの民がこれらの事実を知らないためのものであり、いわばドームポリスの民という生の声なのだ。

 また、ここまで執拗にわかりきったことを延々と展開するのは、もう一つの目的がある。この曲の言葉を聴くと、大半の視聴者はおそらくクスッと笑うと同時に、思わず「おいおい、こんなことも知らないのか……?」と感じるのだろう。しかしよく見ると、それらの内容が歌として伝えられていることは、現象自体が把握されていることなのだ。つまり、民は知識として知っているが、実体験がない状態にいることがわかる。そして、これらのことの答えを知りたい方法はただ一つ。自分で確かめること、すなわちエクソダスだ。

 つまり、この歌詞は「視聴者にとって当たり前のことも体験できない場所に縛られている人たち」と描くと同時に、実体験の大事さを訴えている内容なのだ。当たり前のことも知ることができないのが不幸である。世界観を描きつつ、視聴者の共感性を喚起させる意味では、身体性と祭りといった要素を取り上げる曲として、『∀ガンダム』の挿入歌以上な成熟を見せてくれた



 もっと踏まえて読むと、この歌が歌われることには別の意味が出てくる。

地の果て 麦の穂波が 全部なんて
海峡 魚の群れが 全部なんて
本当かい 本当かい

 これらは一見民の声を代弁するものと同時に、心のなかの願望を喚起する作用も期待されている。エクソダスの旗手であるミイヤ・ラウジンの歌である以上、この曲はエクソダスの思想を伝える「プロパガンダ」であるほかないのだ。

 よく上の歌詞を見ると、歌い手は暗く豊穣の場所--つまり「約束の地」をほのめかしている。シベリアの酷寒に比べて、温暖な気候も、自然に満ちている糧食も、彼らにとって限りなく魅力的に見えるのだろう。この期待こそが、エクソダスにおける何よりの動力だ。そういう意味では、上の「民を代弁する」という生の声が世界観の表側だとすると、その下に隠されている「プロパガンダ」という意図が世界観の裏側と言えるのだろう。



 ところで、この曲については少し語ってみたい。上ではこの歌詞がシベリアの寒さとの対比を狙っていると説明したが、そのような狙いは民族音楽風な曲調と、歌手の宮城小百合が沖縄出身である事実からも伺える。このような熱い歌が酷寒の地に響いたらどうなるか…と想像したとき、『キングゲイナー』という作品は、OPとEDと挿入歌のような熱力を掴みたい旅そのものと言えるかもしれない。

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